彦根歴史研究の部屋

彦根や井伊家の歴史について、これまで発表してきた私見の紹介・補足説明・修正など。

肩書のない1年

昨年の3月末に退職し、どこにも属さずに1年を過ごしました。

 

肩書がない暮らしは、日常的には何ら問題ないものの、所属を表示しないといけない場面も何度かありました。

 

最初は、名刺の表記。
フリーであれ仕事をしている以上、名刺は必須。
仕事上で渡す際には、自分が何者か表記しておく必要があります。
そこで、前の所属と研究テーマを記しました。そして、渡す際には「退職して現在はフリーで研究しています」と、説明を加えることにしました。

 

肩書を表記することを迫られたのは、論文掲載の時です。
『日本歴史』という専門の論文雑誌に論文が掲載されることになったのですが、論文の末尾には所属を表記することになっています。
この場合も編集部の方と相談して、「元○○」と前職を入れることにしました。

 

唯一支障があったといえば、史料閲覧を依頼した際のことでしょうか。
歴史史料の現物の多くは博物館施設が所蔵しており、研究する上でどうしても必要な場合、所蔵機関に閲覧を依頼します。

前回述べたとおり、『井伊直政』の執筆に際して、未確認の井伊直政書状があったため、所蔵機関に閲覧を依頼しようとしました。
電話して用件を伝えたところ、こちらの所属を聞かれ、「博物館を退職して現在は所属していない」と伝えると、電話の主(おそらく事務方)から先に取り次いでもらませんでした。
ようやく、教員からの推薦があれば可能な場合もあるということを聞き出し、改めてそのルートで依頼して閲覧しました。

もちろん、機関により方針があるのは当然です。私も同様の依頼を受け付ける担当をしていたため、一般の歴史愛好家から史料を見せてほしいという電話に何度も応対してきました。
おそらく多くの機関では、一定の基準を設けて、必要不可欠な専門家に限って認めるという運用をしているのでしょう。

専門家と考えるかどうかのわかりやすい基準が所属・肩書であり、応対した人が誰であっても同様の判断ができます。
私の場合はレアケースで、事務方では判断できる基準がないため、事情のわかる専門家へ判断が委ねられたと理解できます。