関ヶ原合戦図屏風は観て楽しみたい
先週末の夜、テレビ番組で「関ヶ原合戦図屏風」が使われているのを見つけました。
「嵐にしやがれ」3月17日放送の中、将棋の羽生さんと嵐メンバーとの対決で、関ヶ原合戦図屏風の複製が背景に立てかけられていました。
説明などまったくなかったので、井伊家伝来本(彦根城博物館所蔵)だと気づく人はほとんどいないと思いますが・・・。
関ヶ原合戦を描いた絵画は何種類もあります。
十数年前から戦国合戦図について研究が進み、一つの合戦でも色々なパターンの作品が見つかりました。関ヶ原合戦図を描いた作品も、何系統も現存していることがわかってきました。
絵画作品として評価されている関ヶ原合戦図は、
通称「津軽屏風」と呼ばれる八曲一双の大きな屏風。現存する関ヶ原合戦図のうちもっとも古く、家康が戦勝記念に描かせたと伝えるもので、重要文化財に指定されている作品。大坂歴史博物館所蔵。
が有名です。
大阪歴史博物館:第26回特集展示「前田コレクション名品撰-重要文化財「関ヶ原合戦図屏風」と工芸の優品-」
ただ、有名な部将たちが東西両軍にわかれて関ヶ原でバトルを繰り広げた様子がわかりやすく描かれているのは、井伊家に伝来した関ヶ原合戦図でしょう。
この作品は古くから知られており、社会の教科書や資料集をはじめとしてさまざまな書籍にも掲載されているので、見たことのある方は多いはずです。
関ヶ原合戦図 | 彦根城博物館|Hikone Castle Museum|滋賀県彦根市金亀町にある博物館
この関ヶ原合戦図が受け入れられたのは、単に古くから知られているだけではなく、観ていて楽しいからだと思います。
関ヶ原合戦では、多くの大名・領主が配下の者を統率して軍事組織を結成し、戦いました。
この合戦図は、関ヶ原で戦ったほとんどの部隊を描き込んでいます。そのため、どこにどの部隊がいるのか、どの隊と戦っているのか、あるいはどのような動きをしているのか探して楽しむことができます。
おそらく作者自身がそのように意識して描いたと考えられます。
実は、井伊家伝来本はオリジナル作品ではなく、写しです。同様の構図をもつ写しの作品には
- 井伊家家老の木俣家に伝来した屏風(彦根城博物館所蔵)
- 関ケ原町歴史民俗資料館所蔵
などがあります。
オリジナルは現存していませんが、狩野梅春という幕末の絵師が描いたようです。
このこと、つまり幕末の絵師が同時代の読者を想定して描いた作品であることを念頭において作品を見てみると、興味深いことがわかってきます。当時と私たちとでは、関ヶ原合戦について知っている歴史知識が異なっているからです。
江戸時代の人は関ヶ原合戦についてどのような情報を持っていたのかを知ると、この作品をいっそう楽しむことができます。
詳しくは、
野田浩子「関ヶ原合戦図屏風の図像とその展開」(『彦根城博物館研究紀要』14号、2003年)に記しています。
次回以降、楽しさを少し紹介しましょう。
この関ヶ原合戦図屏風は、観ていて楽しい作品です。テレビ番組では、相応の利用料金を支払って使用しているはずなので、背景として使うなら他にふさわしい絵画があるのでは? と思って見ていました。