彦根歴史研究の部屋

彦根や井伊家の歴史について、これまで発表してきた私見の紹介・補足説明・修正など。

井伊直政家臣列伝

井伊直政家臣列伝 その25 遠江・駿河・三河出身の諸士

これまでみてきた家臣以外で、井伊氏の出身地である遠江やその周辺の駿河・三河出身の者をまとめて示しておく。戦国時代は今川の領国であった地域であり、ほとんどが今川配下にあったという由緒をもつ。 芦名元勝 芦名助兵衛元勝は、「貞享異譜」によると、…

井伊直政家臣列伝 その24 横地吉晴 ~遠江の名門から北条重臣へ~ 

横地氏の出自 横地吉晴は、元は北条氏家臣で、北条氏滅亡後に井伊直政の家臣となった人物である。 「貞享異譜」には、吉晴は武蔵国八幡山城主横地監物吉勝の長男で、幼名は与三郎、本国は遠江国と記す。 ここで遠江国を本国と記したのは、先祖を遠江の武家横…

井伊直政家臣列伝 その23 庵原朝昌 ~今川譜代の名門~ 

庵原氏の出自 庵原氏の出身は駿河国庵原郡庵原郷という。古代以来ある郷名を名字の地としており、詳細はわからないが古くからの地域の名族と推定されている。戦国時代には大名今川氏の配下にあり、「今川仮名目録」に庵原周防守の名がみえる。家臣が知行を担…

井伊直政家臣列伝 その22 戸塚左太夫 ~勝間田氏の末裔~ 

戸塚氏の出自 戸塚氏は遠江国榛原郡勝間田庄戸塚の出身という。勝間田庄(勝田と記されることもある)は中世武士勝間田氏の本拠地である。勝間田氏は、『保元物語』に源義朝が率いた関東武士の中、遠江国の者として井伊氏とともに登場しており、鎌倉御家人で…

井伊直政家臣列伝 その21 三浦元成・元定と安久 ~今川旧臣の一族~ 

今川家臣の三浦氏 直政家臣の中に今川旧臣という由緒をもつ三浦氏が数系統ある。 三浦氏といえば、相模国三浦を苗字とする武家で、武家の興った平安時代以来の名族である。鎌倉幕府の有力御家人が有名であるが、嫡流が幕府内の対立(宝治合戦)により滅びた…

井伊直政家臣列伝 その20 長野業実 ~箕輪城主の一族~ 

井伊直政が初めて城主となった上野国箕輪城の元城主である長野氏の一族も井伊家の重臣にいる。 上野の有力国衆 箕輪の長野氏といえば、戦国時代の長野業政が有名である。上野国は、関東管領でもあった上杉氏が代々守護を務めていたが、上杉氏が2代にわたり…

井伊直政家臣列伝 その19 河手良則 ~直政の義兄~

直政と親戚関係を築いて井伊家の重臣となった人物に河手良則がいる。良則は直政の姉を妻とした。 河手氏の出自 河手良則の出身は三河国武節(愛知県豊田市)で、その近くの河手(江戸時代の村名は川手村)が苗字の由来の地である。 河手氏の先祖は山田氏、設…

井伊直政家臣列伝 その18 椋原正直 ~もう一人の付家老~ 

椋原正直は、木俣守勝・西郷正員とともに徳川家康から井伊直政へ付けられた重臣である。ただし、木俣家と西郷家が江戸時代を通じて井伊家の家老を務めたのに対し、椋原はそこまでの活躍が見られず、影の薄い家といえる。そこには理由があった。 椋原正直の出…

井伊直政家臣列伝 その17 西郷正員 ~秀忠生母の一族~ 

徳川家康から井伊直政に付けられた重臣の一人に西郷藤左衛門正員がいる。秀忠と忠吉の生母である西郷局(さいごうのつぼね)の実家である西郷氏の一族である。 西郷氏の出自 西郷氏は三河国八名郡西郷を名字の地とする武家である。南北朝期に三河国守護であ…

井伊直政家臣列伝 その16 木俣守勝 ~家康からの付家老~(下) 

木俣守勝は徳川家康によって井伊直政へ付けられ、その活躍を支えた。直政が家康の筆頭家臣として軍事的・政治的側面から家康の天下取りを支えた裏には、守勝ら有能な家臣の存在もあった。 守勝が直政のもとで発揮したその才覚を示す逸話を「木俣木俣土佐守守…

井伊直政家臣列伝 その15 木俣守勝 ~家康からの付家老~(上) 

今回から、元々徳川家康の家臣で井伊直政へ付けられた家臣へと話を進めていきます。 まずは、付家老の筆頭格、木俣守勝から。 木俣守勝は直政の主要家臣の一人であり、系図や由緒書も残っており、井伊家に仕える前のことも比較的判明する。まず、自伝の形式…

井伊直政家臣列伝 その14 渡辺昌元 ~初めての新規家臣~ 

これまで見てきた初期からの直政家臣は、直政以前より井伊氏と関わりを持っていた。井伊氏を再興させようとして直政を当主に据えることに尽力してきた者や、井伊氏の没落により離れていたが直政の出仕とともに戻ってきた者らが集結した。 しかしそれだけでは…

井伊直政家臣列伝 その13 内山正辰 ~今村氏に次ぐ譜代家臣~ 

内山正辰は、「侍中由緒帳」によると、生国は信濃国内山であるが井伊谷の井伊直盛に奉公しており、その筋目により直政が徳川家康に出仕した際、直政に召し抱えられた3人の中の一人という。また、「貞享異譜」では、天正3年(1575)に召し出され、直政の初…

井伊直政家臣列伝 その12 今村正実・正躬 ~父祖以来の家人~ 

今村正実・正躬兄弟も、最初期からの直政家臣である。直政の初陣とされる芝原の陣から御供していたと伝える。 父今村藤七郎 両名の父である今村藤七郎は、直政の父直親の少年期にその傍にいた人物として『井伊家伝記』で描かれている。 『井伊家伝記』では、…

井伊直政家臣列伝 その11 片桐正直 ~井伊一門の伊平氏~ 

片桐正直は、その名から一見したところではわからないが、井伊氏一族で初期から直政家臣となった者である。元は伊平氏で、権之丞、のち権右衛門と称した。 伊平氏 伊平氏は引佐郡伊平を本拠とする一族で、系譜上では井伊氏の一門となっている。井伊氏の系図…

井伊直政家臣列伝 その10 酒居忠常 ~もう一人の従兄弟~ 

前回の奥山朝忠が直政にとって母方の従兄弟であったのに対し、父方の従兄弟も直政の側近くにいた。酒井忠常である。 忠常は酒井大膳亮忠敏と井伊直満の娘を父母にもつ。つまり、直政の父直親と忠常の母親が兄妹であり、直政と忠常は従兄弟という関係にあった…

井伊直政家臣列伝 その9 奥山朝忠 ~似た境遇の従兄弟~ 

奥山一族 奥山氏は、井伊谷より北西に約5㎞、奥山の地に拠点を置く武家である。 系図上は井伊氏と同族となっている。井伊氏の伝説の「元祖」共保からかぞえて5代目の良直、俊直、政直の兄弟がそれぞれ井伊氏、赤佐氏、貫名氏へと分立し、さらに赤佐氏から…

井伊直政家臣列伝 その8 近藤秀用 ~「井伊谷三人衆」から井伊谷の領主へ~ 

近藤康用(1517生~1588没) 近藤氏は三河国宇利を本拠としていた。「寛政重修諸家譜」には康用の祖父である満用から記載されており、その墓所は宇利村にあったことから、その段階で宇利に拠点を置いていたことがわかる。 宇利の周辺には「井伊谷三人衆」と…

井伊直政家臣列伝 その7 鈴木重好(後編) ~「井伊谷三人衆」から直政筆頭家臣へ~ 

直政家臣の筆頭 鈴木重好は、井伊直政家臣団の中で筆頭に位置する重臣であった。 井伊隊の軍事構成は、2つの先備え隊と旗本隊を基本としたが、関ヶ原合戦の際には重好と木俣守勝が先備え隊の隊長を務めている。合戦後、重好が土佐浦戸城の受け取りに出向い…

井伊直政家臣列伝 その6 鈴木重好(前編) ~「井伊谷三人衆」から直政筆頭家臣へ~ 

鈴木平左衛門尉重勝 「井伊谷三人衆」の一人、鈴木重時は、父重勝の時代から三河国山家吉田に居住し、足助の鈴木氏と同族という。重勝は天文元年(1532)に青龍山満光寺(新城市下吉田)を造立しており、隣接する柿本城もその頃までに重勝により整備されたと…

井伊直政家臣列伝 その5 菅沼忠久 ~「井伊谷三人衆」の家~ 

菅沼一族 菅沼氏は戦国時代、三河国東部の設楽郡に本拠を置いた一族で、嶋田、長篠、田峯、野田などを領する家に分立していた。 長らく駿河の今川氏の配下にあり、本拠から国境を越えて遠江へも勢力を伸ばしている。永正年間(1504~1521)、駿河の戦国大名…

井伊直政家臣列伝 その4 松井四兄弟 ~二俣城主の一族~

松井氏は「井伊谷七人衆」の一角を占めるが、他の六氏ほど有名ではない。 直政の初期からの家臣に松居清易ら四兄弟がいる。その由緒によると、祖父は二俣城主の松井宗信、父は宗継という。 宗信は桶狭間の戦いで討ち死にした今川方の国衆として存在が確認で…

井伊直政家臣列伝 その3 中野直之・中野三信 ~井伊氏の一門~

中野氏は井伊氏の一族で、井伊谷の中にある中野という地が本貫地という。井伊家の系図類では、井伊直平(直政の曾祖父)の父直氏の弟である直房を中野氏の祖とする。井伊氏や重臣と婚姻関係を重ねており、井伊氏の一門として重要な役割を果たした家である。 …

井伊直政家臣列伝 その2 小野源蔵 ~井伊氏奉行の家~ 

小野氏の家系 小野氏は大河ドラマ「おんな城主直虎」の影響で一挙にメジャーになった。しかしドラマの「元ネタ」といえる「井伊家伝記」は小野氏(和泉守・但馬守)を敵役に位置づけて描いていると思われる。まずはその理由も含めて、戦国期の小野氏のあり方…

井伊直政家臣列伝 その1 松下清景 ~直政の養父~ 

松下一族 松下氏は遠江頭陀寺(浜松市南区)を拠点とする一族で、今川義元・氏真に仕え、その後徳川家康に出仕したという由緒をもつ。頭陀寺の近くには引馬城(のちの浜松城)があり、今川時代の松下氏は引馬城主飯尾氏の軍事配下に属す与力の関係(いわゆる…

井伊直政家臣列伝 プロローグ 井伊谷七人衆

新シリーズとして「井伊直政家臣列伝」の連載を開始します。 『井伊直政 家康筆頭家臣への軌跡』では、直政家臣のことも多く触れています。中には、史料を調べる中で新しくわかってきたこともあります。ただ、この本は直政が主役なので、家臣についてはわか…